共有学習カードに、芥川龍之介さんの小説「河童」があります。
河童の全文読むことができます。
序
これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。彼はもう三十を越しているであろう。が、一見したところはいかにも若々しい狂人である。彼の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでもよい。彼はただじっと両膝《りょうひざ》をかかえ、時々窓の外へ目をやりながら、(鉄格子《てつごうし》をはめた窓の外には枯れ葉さえ見えない樫《かし》の木が一本、雪曇りの空に枝を張っていた。)院長のS博士や僕を相手に長々とこの話をしゃべりつづけた。もっとも身ぶりはしなかったわけではない。彼はたとえば「驚いた」と言う時には急に顔をのけぞらせたりした。......
僕はこういう彼の話をかなり正確に写したつもりである。もしまただれか僕の筆記に飽き足りない人があるとすれば、東京市外××村のS精神病院を尋ねてみるがよい。年よりも若い第二十三号はまず丁寧《ていねい》に頭を下げ、蒲団《ふとん》のない椅子《いす》を指さすであろう。それから憂鬱《ゆううつ》な微笑を浮かべ、静かにこの話を繰り返すであろう。最後に、――僕はこの話を終わった時の彼の顔色を覚えている。彼は最後に身を起こすが早いか、たちまち拳骨《げんこつ》をふりまわしながら、だれにでもこう怒鳴《どな》りつけるであろう。――「出て行け! この悪党めが! 貴様も莫迦《ばか》な、嫉妬《しっと》深い、猥褻《わいせつ》な、ずうずうしい、うぬぼれきった、残酷な、虫のいい動物なんだろう。出ていけ! この悪党めが!」
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2007年11月21日 21:23 個別ページ | コメント(0) | トラックバック(0)
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